遺言

 遺言とは

遺言者、すなわち被相続人(一般的には、お亡くなりになられた方)の死後の法律関係を確保し、遺言に示された意思表示に一定の法律効果を与える制度です。遺言によってすることができる事項は法定されています。遺言が効力を生じるのは、遺言者の死後ですから、遺言者にその意思を確かめることはできません。そのため、厳格な様式が定められています。
遺言を作成しておくことにより、相続財産の承継について、被相続人ご自身の意思を反映させることが可能となります。ただし、法律で定められた方式で作成されたものでなければ法的効果を生じません。

 

遺言能力

遺言は、遺言者の最終意思を尊重する制度で、性質上、代理の許されない行為ですから、制限行為能力者とされる者にも、できるだけ遺言をすることができるようにする必要があります。しかし、他方で、遺言をするには、遺言事項について合理的な判断をするだけの意思能力が必要となります。
そこで、民法は、その能力を有する標準を15歳に定めました。したがって、未成年者であっても、15歳に達した者は、単独で有効に遺言をすることができます。また、成年被後見人であっても単独で遺言をすることができますが、遺言の時に本心に復していることを証明するために、医師2名以上の立ち合いを必要とすることとしました。

 

撤回

遺言者は、いつでも、遺言の方式にしたがって、その遺言の全部又は一部を撤回することができます
さらに、前の遺言と抵触する内容の遺言がなされた場合には、抵触する部分で、撤回がなされたものとみなし、遺言に抵触するような行為があった場合には、同様に遺言の撤回とみなします。

(遺言の撤回)
第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

 

遺言の注意点
@ 遺言は、たとえ夫婦であっても、二人以上の者が同一の証書ですることができません(共同遺言の禁止)。
A 遺言があっても、相続人全員が同意するのであれば、遺言の内容と異なる遺産分割協議を行うことができると解されています。ただし、この場合でも、遺言執行者がいるケースでは遺言執行者の同意が必要だと解されています。なお、そもそも遺言者が、遺言と異なる遺産分割を禁じた場合には、遺言の内容と異なる遺産分割はできません。

 

 遺言の方式

遺言の方式には普通方式遺言と特別方式遺言がある。
普通方式遺言
自筆証書遺言
自筆証書遺言は遺言者による自筆が絶対条件となっています。
遺言書の全文が遺言者の自筆で記述(代筆やワープロ打ちは不可)
日付と氏名の自署
押印してあること(実印である必要はない)
なお、2018年相続法改正により自筆証書遺言に付属させる財産目録に限ってパソコンなど自筆以外で作成することができるよう緩和された(財産目録が複数のページに及ぶときは各ページ、両面にあるときは両面に署名押印を要する)。また、自筆証書遺言の遺言書に銀行通帳の写しや登記事項証明書を添付することも可能となりました。
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない(1004条1項)。ただし、2020年7月10日より法務局における遺言書の保管等に関する法律が施行され、法務局において保管されている遺言書については、遺言書の検認の規定は適用されません。
公正証書遺言
遺言内容を公証人に口授し、公証人が証書を作成する方式で、証人2名と手数料の用意が必要となります。ただし、推定相続人・受遺者等は証人とはなれません。
公証人との事前の打ち合わせを経るため、内容の整った遺言を作成することができます。証書の原本は公証役場に保管され、遺言者には正本・謄本が交付されることになります。遺言書の検認は不要です(1004条2項)。遺言作成者は、公証役場を訪問して作成するほか、公証人に出向いてもらうことも可能です。
秘密証書遺言
遺言内容を秘密にしつつ公証人の関与を経る方式で、証人2名と手数料の用意が必要となります。証人の欠格事項も公正証書遺言と同様です。代筆やワープロ打ちも可能ですが、遺言者の署名と押印は必要であり(970条1項1号)、その押印と同じ印章で証書を封印します(同項2号)。代筆の場合、証人欠格者以外が代筆する必要があります。遺言者の氏名と住所を申述したのち(同項3号)、公証人が証書提出日及び遺言者の申述内容を封紙に記載し、遺言者及び証人と共に署名押印します(同項4号)。遺言書の入った封筒は遺言者に返却されることになります。自筆証書遺言に比べ、偽造・変造のおそれがないという点は長所ですが、紛失したり発見されないおそれがあります。
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない(1004条1項)。

 

特別方式遺言
普通方式遺言が不可能な場合の遺言方式。普通方式遺言が可能になってから6か月間生存した場合は、遺言は無効となります。

(死亡の危急に迫った者の遺言)
第976条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
(伝染病隔離者の遺言)
第977条 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(在船者の遺言)
第978条 船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(船舶遭難者の遺言)
第979条 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4 第976条第5項の規定は、前項の場合について準用する。

 

 

 相続

 相続とは

自然人が死亡した場合に、その者の有する権利・義務が、その者と一定の関係にある者に承継されることをいいます。
相続が開始されると、まず、「相続人」「相続財産」「相続財産をどのように分割するか」について確定しなければなりません。

 

相続開始の原因

@ 自然死亡
相続開始原因は、人の自然の死亡及び法的に擬制される死亡のみです。後者には認定死亡及び失踪宣言があります。相続においては、相続能力に関する同時存在の原則との関係上、死亡の先後が権利の存否に多大な影響を及ぼすため、死亡の瞬間の確定が重要です。
A 認定死亡
認定死亡とは、死亡の確認はできないが、危難にあって諸般の事情から死亡の蓋然性が高い場合に、官庁又は公署が死亡の認定をする制度です。認定死亡には自然死亡と同様の効果が発生し、相続開始原因となります。
B 失踪宣告
失踪宣告とは、不在者の生死不明な状態が長期に継続して死亡の蓋然性が大きい場合に、家庭裁判所が利害関係人の請求により死亡したものとみなす制度です。失踪宣告の審判がなされると、普通失踪においいては7年間の期間満了時に、危難失踪においては危難が去ったときに、死亡したものとみなされます。しかし、生存が判明した場合や死亡時期が異なることが判明した場合には、不存在又は利害関係人の請求により、家庭裁判所が失踪宣告を取り消します。この取消しによって失踪宣告後に生じた法律関係が影響を受けることになります。
C 同時死亡の推定
同時死亡の推定とは、数人の者が「死亡した場合において、そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定することを意味し、同時存在の原則により、これらの者の間には相続は発生しません。
同時存在の原則
被相続人の財産んが相続によって相続人に移転するためには、相続開始の時点で相続人が存在しなければならないという原則で、相続法の大原則といわれます。財産の承継において一瞬たりとも無主物になることを認めない近代法に基づくものです。この原則の結果、被相続人と相続人が同時に死亡した場には、一方の死亡時には他方はすでに存在していませんので、そうぞくはできないということになります。

 

相続開始地

相続は被相続人の住所地において開始しますが、相続に関する事件の管轄については家事事件手続法に個別に定められています。
相続開始地を決める意味
民法883条では「相続は、被相続人の住所において開始する。」と規定しています。これは前条が「相続開始の時期」を定めたことに対応して、「相続開始の場所」を定めたもので、この規定の意義は専ら相続事件についての裁判管轄を定めることにあります。しかし、相続事件には、推定相続人廃除請求や危急時遺言における確認請求、遺留分の放棄のように、「被相続人の住所」とは、必ずしも被相続人の相続開始時の住所に限られません。つまり、相続事件のすべてを包括する単一の裁判管轄は存在しないということになります。そして、家事事件手続法は、各種の相続に関する事件の管轄を個別に規定しています。したがって、民法883条は実質的な意味は失われており、ただ、家事事件手続法における「相続開始地」が「被相続人の相続開始時の住所」であることを明らかにするという解釈規定としての意味は存在しているといえます。

 

相続回復請求権

相続回復請求権とは、不真正相続人(表見相続人及び詐称相続人)が、真正相続人の相続権を否定して、相続の目的たる権利を侵害している場合に、真正相続人が自己の相続権に基づきその侵害を排除し、相続財産の回復を請求する権利です。たとえば、相続が開始した場合に、相続を排除された者等の表見相続人や、相続人と称するまったくの第三者(詐称相続人)が、相続財産の一部又は全部を占有したりするなどして相続人の権利を侵害することがあり得ます。このような場合に、真正相続人が、その侵害を排除し、相続財産を回復するために設けられたのが、相続回復請求権の制度です。
相続回復請求権は、相続人又は法定代理人が、相続権を侵害された事実を知った時から5年間これを行わないときは、時効によって消滅します。また、相続開始の時から20年を経過したときも、相続権侵害の事実を知ったか否かに関係なく消滅します。

 

 相続人

 

胎児

胎児とは、相続開始の時において懐胎されているが、まだ出生していない者のことをいい、同時存在の原則の例外として、胎児にも条件付きで権利能力が認められ、相続人となることができます。
民法は、相続開始の時に胎児であった者については、相続に関してはすでに生まれたものとみなすことにしています。
○「すでに生まれたものとみなす」とは
生まれてくることを停止条件とする停止条件説と、死んで生まれることを解除条件とする解除条件説の見解があります。停止条件説では、胎児自身に権利能力はなく、生きて生まれたときに、相続時に遡って権利能力が認められます。解除条件説では、胎児に法定代理人を就任させることが可能となります。判例は、停止条件説を採用しています。
胎児が死んで生まれたときは、最初から胎児がいなかったものとして取り扱われます。停止条件説によると、胎児は生きて生まれたきに、相続時に遡って権利能力を取得するので、死体で生まれた場合は、一時も権利能力を取得しないことになります。

 

相続人の範囲と順位

相続人には、被相続人と血縁関係にあることによって相続権が与えられる血族相続人と、被相続人の配偶者であることによって相続権が与えられる配偶者相続人があります。さらに、血族相続人には、被相続人の直系尊属兄弟姉妹があります。
被相続人の配偶者は、血族相続人とは別に、常にそれと並んで相続人となります。
配偶者は、血族相続人がいるときは、それらの者と同順位で相続人となり、血族相続人がいないときは、単独で相続人となります。
血族相続人の順位ですが、第1順位の相続人は、被相続人の子です。
実子と養子の間、嫡出子と非嫡出子との間には、順位の差はなく、子が数人いれば同順位で相続します。
第2順位の相続人は、直系尊属で、第1順位の子(及びその代襲者)がいないときに、はじめて相続人となります。
1親等の直系尊属である父母、2親等の直系尊属である祖父母にも固有の相続権が与えられていますが、直系尊属の中に、親等の異なる者がいる場合には、親等の近い者のみが相続人となり、それ以外の者は、相続人となることはできません。実父母であるか養父母であるかの差はなく、親等が同じであれば同順位で相続します。
第3順位の相続人は、兄弟姉妹で、第1順位、第2順位の相続人がいないときに、はじめて相続人となります。兄弟姉妹が数人いるときは、同順位で相続します。ただし、被相続人と父母を同じくする兄弟姉妹と一方を異にする兄弟姉妹では、後者は前者の1/2しか相続できません。

 

代襲相続

代襲相続とは、相続開始時に、相続人となるべき者が死亡していたり、相続欠格及び廃除によって相続権を失っている場合に、相続権を失った者の子が、相続権を失った者と同一順位で被相続人の被相続人となることをいいます。
@ 代襲相続人
相続開始時(被相続人死亡時)に、相続人となるべき者がすでに死亡している場合等、相続権を失った者の子が生存しており、その者の子が被相続人の直系卑属である場合は、この者が相続権を失った者と同順位の相続人となります。この場合、相続人となるべきであった者を被代襲者といい、その者の子を代襲相続人といいます。
A 代襲者の範囲
代襲者が認められているのは、子が相続人となる場合と兄弟姉妹が相続人となる場合です。すなわち、被代襲者は、被相続人の子、又は被相続人の兄弟姉妹でなければなりません。直系尊属が相続人となる場合には、代襲相続は認められていません。被相続人の父母のうち、母が先に死亡した場合でも、母の子(被相続人の兄弟姉妹)が母を代襲することはありません。
B 代襲原因
代襲原因とは、代襲相続が発生する原因をいいます。代襲原因には、被代襲者について、・死亡 ・欠格 ・排除の事由が生じた場合があります。相続放棄による相続権の喪失は、代襲原因とはなりません。

 

相続人になれない者

相続人なるべき者であったとしても、一定の重大な事由が存在する場合には、その者に相続させることが一般の法感情からみて妥当でない場合があります。
@ 相続欠格
相続欠格とは、このような者を相続欠格者として、被相続人の意思を問うことなく、法律上当然に相続人たる資格を奪う制度です。
・故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
・被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。
・詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
・詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
・相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
A 廃除
廃除とは、相続欠格に該当するほどではなりませんが、被相続人に対する虐待等の事由があり、被相続人が推定相続人に相続させることを欲せず、また欲しないことが一般の法感情からみて妥当とされるような事情がある場合に、被相続人の意思によって、推定相続人の相続人たる資格を奪う制度です。
廃除事由
・被相続人に対する虐待
・被相続人に対する重大な侮辱
・その他の著しい非行
排除の対象となる者は、遺留分を有する推定相続人、すなわち子・直系尊属・配偶者に限られます。

 

 相続分の確定

相続人が複数人いる場合に、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します。各共同相続人の相続分の決定については、現実には、まず、被相続人の遺言による指定によって決定され、遺言による指定がなされない場合には、相続人全員の協議により定められます。いずれもが適用されない場合には、民法の定めるところにより決定されます。

 

指定相続分

指定相続分とは、遺言によって指定した相続分のことを指します。
民法902条においては、「被相続人は、第900条(法定相続分)および第901条(代襲相続分)の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、またはこれを定めることを第三者に委託することができる。」と定めています。つまり、被相続人は、遺言により、「どの相続人にどれくらいの財産を相続させるか」を決めることができますし、あるいは、それを第三者へ委託することもできるのです。
被相続人は、遺言により相続人に相続させる割合や財産を自由に指定することができます。しかし、無制限に自由自在に相続分を指定できるわけではありません。兄弟姉妹以外の法定相続人には、「自分が最低限もらうことができる相続分」として、「遺留分(民法第1028条)」というものが保証されており、たとえ遺言による相続分の指定といえども、この遺留分を侵害することはできないのです。

 

法定相続分

相続分の指定あるいは指定の委託がない場合には、各共同相続人の相続分は、民法に定める法定相続分により定まります。

相続人の組み合わせ 配偶者 子・直系尊属・兄弟姉妹

配偶者+子ども

2分の1

2分の1

配偶者+直系尊属

3分の2

3分の1

配偶者+兄弟姉妹

4分の3

4分の1

父母の一方が異なる兄弟姉妹は、父母の双方が同じ兄弟姉妹の2分の1

 

遺産分割

相続人が複数人あるときは、相続財産は相続の開始と同時に相続人の共有に属することになります。しかし、この共有関係は、遺産分割がされるまでの過渡的なものであり、相続人の共有に属した相続財産は、遺産分割によって各相続人に個別具体的に帰属することになります。遺産分割とは、共同相続人の共有に属する相続財産を、各相続人の固有財産とするための総合的な分配手続のことです。
共同相続人は、相続開始後いつでも自由に遺産を分割することができるのが、原則です。
ただし、遺言により、分割方法の指定がなされた場合には、その定めに従って陰惨を分割しなければなりません。
遺言による分割方法の指定がない場合には、いつでも共同相続人の協議によって遺産を分割することができます。協議分割をするには、共同相続人全員の参加を要し、一部の共同相続人を除外し、又はその意思を無視してなされた協議分割は無効です。

 

 遺留分

「遺留分」とは、相続人の最低限の相続分のことです。
被相続人は、自分の財産を誰にどう相続させるかを自由に決めることができ、そのために遺言書という制度があります。
しかし、たとえば遺言書に「全財産を愛人のA子に相続させる」と書かれていると、本来は遺産を受け継ぐ権利のある人が、まったく受け取れないことになってしまい、残された遺族の生活が保障されなくなってしまいます。そこで、民法では一定範囲の相続人に対して最低限もらえる財産を保障しています。これを「遺留分の制度」といいます。
被相続人が、特定の相続人や第三者に贈与または遺贈をして、それによって相続人の遺留分が侵害された時には、侵害された相続人が贈与または遺贈を受けた相手に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
たとえば、相続人が被相続人の長男と次男の2人であった場合に、遺言書で「長男に全財産を相続させる」と記載してあった場合には、次男は長男に自分の遺留分である遺産の4分の1に相当する額の金銭の支払いを請求できる権利があります。
遺留分が認められる者は、兄弟姉妹以外の相続人、すなわち、子及びその代襲相続人、直系尊属、配偶者です。

 

遺留分の割合

相続人が配偶者のみの場合
配偶者: 100%(法定相続分)×2分の1=2分の1…遺留分

 

相続人が配偶者と子ども2人の場合
配偶者: 2分の1×2分の1=4分の1…遺留分
子ども: 2分の1×2分の1=4分の1(法定相続分)
     4分の1×2分の1=8分の1…遺留分

 

相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合
配偶者: 4分の3(法定相続分)→2分の1…遺留分
兄弟姉妹:遺留分なし

 

相続人が被相続人の兄弟姉妹のみの場合は遺留分はないので、すべて被相続人の自由にすることができます。

 

遺留分侵害請求

被相続人が特定の相続人等に遺産のほとんどを譲るといった内容の遺言を残していた場合など、特定の者にだけ有利な内容の遺産分配がなされた場合に、一定の範囲の法定相続人が自己の最低限の遺産の取り分を確保することのできる制度です。
相続において法定相続人の順位と範囲が決められているのは、相続財産によって残された家族の生活保障をする趣旨もありますから、被相続人と一定の繋がりのあった人たちに関しては、遺留分として最低限の遺産を取得する権利があります。
2019年7月1日施行の法改正により、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになりました。

 

遺留分請求できない人

@ 相続放棄した人
相続放棄とは、相続人が遺産の相続を放棄することです。
相続放棄をすると、法律上最初から相続人として存在していなかったこととなるので、遺留分もなくなることになります。

 

A 相続欠格となった人
相続の欠格とは、被相続人を殺害したり遺言を偽造、破棄、隠匿したり、詐欺や脅迫で被相続人に遺言をさせたりなど、非合法が行われた時に相続人の資格をはく奪されることです。相続人の資格を失うので、遺留分も当然になくなります。

 

B 相続の排除をされた人
相続の欠格ほどではなくても、相続人の行いに問題があった時には被相続人の意思によって相続の資格を奪うことができます。これを「相続の廃除」といい、などに認められます。
相続の廃除は、配偶者、子ども、父母に認められますが、遺留分のある兄弟姉妹には遺留分がないので、相続の廃除はできません。

 

 

ページの先頭に戻る