⧉ 契約書
契約書とは
契約書(けいやくしょ)とは、契約を締結する際に作成される当該契約の内容を表示する文書のことをいい、書面の作成など一定の方式によらなければ成立しない契約を要式契約、それ以外の契約を不要式契約といいます。日本法上は、一部の例外(保証契約など)を除き、本来契約の成立には契約書を作成することを必要としない不要式契約となっています。また、国際取引においてもほとんどの場合に書面がなくても契約は有効に成立します。しかし、国際取引など重要な契約を口頭のみで行うことはまずありません。
それは次のような理由によるものです。
・契約内容に関する紛争、蒸し返しの防止のため
・契約内容の明確化や理解の正確化のため
・契約交渉に参加しなかった第三者による合意内容の把握のため
・紛争や訴訟が起きたときの証拠とするため
法律で契約書の作成が契約の成立要件となっている場合(要式契約)は口頭のみでは契約は成立しません。
日本法での契約書
(契約の成立と方式)
第522条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
日本の民法では契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備しなくてもよく不要式契約が原則である。2017年に成立した改正民法で明文化された(2020年4月1日施行)。もっとも、重要な契約(不動産の売買契約・賃貸借契約、金銭消費貸借契約、金額の大きな契約など)については、合意内容の明確化や紛争の防止等の理由から、契約書が作成されることが多い。
(保証人の責任等)
第446条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
一方、保証契約などは書面でしなければならないとされており要式契約である。
契約書の書式は予め決められておらず、契約者が使っているひな型を契約する内容に合わせて編集する場合が多いです。契約する側の正式名称や本名を「甲」、契約される側の正式名称や本名を「乙」と省略することも多く、契約書で使われる数字は、漢数字で記述するのが一般的です。
また契約の当事者が合意したことを証するために、署名や記名押印(実務上、両者は「調印」と呼ばれる)が行われるのが一般的となっています。一定の類型の契約書を作成した場合、関連する金額に応じた収入印紙を貼付しなければならなりません(印紙税)。
契約書の種類
契約書と一口にいっても、その種類は多種多様です。契約書には民法で定められているために発生するものと、民法以外の法律で定められているために発生するものとがあります。
次の表に分野と該当する代表的な契約書の一部を列挙します。
分野 | 契約書の種類 |
---|---|
商取引 |
取引基本契約書 秘密保持契約書 リース契約書 |
会社運営 |
株式譲渡契約書 株式売渡契約書 新株予約権付与契約書 役員選任契約書 |
委託・委任 |
業務委託契約書 商品販売委託契約書 顧問契約書 行政書士委任契約書 |
請負 |
保守契約書 工事請負契約書 製造委託契約書 商品運送契約書 |
人事 |
労働約書 身元保証契約書 労働派遣契約書 就業規則 |
不動産 |
不動産賃貸借契約書 定期借地権契約書 営業許可契約書 借地権譲渡契約書 |
金銭消費・債権債務 |
金銭消費貸借契約書 債権譲渡契約書 譲渡担保契約書 債務弁済契約書 |
知的所有権 |
プログラム使用契約書 ソフトウェア開発契約書 技術共同開発契約書 |
契約書作成の注意点
具体的かつ明確な表現にする
具体性を欠いた曖昧な表現があると、異なった受け取られかたをしたり、思わぬトラブルに発展したりすることもあります。
テンプレートの利用について
契約書を作成する際に、インターネット等にアップされている契約書のテンプレートをそのまま使用していませんか。
そのままでは、実情に則したものにはなっていないこともありますので、注意が必要です。
内容面、形式面、法的な内容について、確認する必要があります。不安がある方は、必ず専門家のチェックを受けることをお勧めします。
固有名詞や数字の間違いがないか
屋号や商品・サービス名、数量、金額、契約期間などの記載に誤字がないか十分注意してください。万一間違いがあると大きなトラブルに発展しかねません。
合意した内容が盛り込まれているか
契約書は、発行する側の意図が強く反映してしまいます。作成段階では、必ず双方で内容のすり合わせをしてください。合意した内容が反映されているかならず確認してください。
強行法規に違反していないか
契約書に定義される内容は、基本的には当事者双方の自由ですが、内容によっては法律によって強制的に適用されるものがあります。これを強行法規といいます。
強行法規に反する内容は無効になります。強行法規を多く含むような内容は、事前に専門家の確認を受けましょう。
契約トラブルを防ぐために盛り込むべき条項
契約書の付随的な条項となりますが、当事者が履行しな場合に、必ず生きてくる、重要な条項です。
1.履行期限・存続期間
履行期限は、主として1回限りの売買契約などで必要です。存続期間は、継続的取引や賃貸借の場合に必要です。
(動産の賃貸借の場合)
第○条(契約の期間)
本契約は、当事者双方が本契約書に調印した日から効力を生じ、本件機械の据付が完了した日から一年間存続する。なお、この賃貸期間の更新は・・・
(金銭貸借の場合)
第○条(履行の期限)
乙は元金を令和〇年〇月〇日までに、甲へ送金して弁済しなければならない。
2.解除・解約
解除ができる事由としては、契約不履行の他、手形不渡り、破産申立てなどを加えます。
(催告を要する定め方)
第○条(契約の解除)
甲又は乙が本契約に基づく債務につき不履行をなしたときは、相手方は催告のうえ、本契約を解除することができるものとする。
(催告を要しない定め方)
第○条(契約の解除)
乙が本契約の各約定に違反したときは、甲は何らの催告も要せずに、直ちに本契約を解除することができるものとする。
3.損害賠償
損害賠償については具体的に定めます。金銭の貸借では年率、日歩で定めます。
(遅延利息による賠償)
第○条(損害賠償)
本契約に基づく乙の債務につき、乙が履行期限を徒過したときは、乙は徒過した日の翌日から支払い済みに至るまで、日歩〇円の遅延損害金を支払わなければならない。
(損害賠償額を予定した場合)
第○条(侵害賠償)
甲又は乙日本契約上の債務不履行があり、それによって契約が解除された場合には、甲又は乙は、不履行をした相手方に対し、金〇円の損害金汚支払いを求めることができる。
4.保証・連帯保証
契約の当事者が個人会社などの場合には、代表者以外の第三者に連帯保証させることが重要です。
第○条(連帯保証)
連帯保証人〇△太郎は、将来乙が本契約に基づき甲に対して負担する一切の債務(遅延損害金を含む)につき保証し、乙と連帯して履行の責任を負う。
5.危険負担
不動産、動産の売買の例でみられる規定です。売買の目的物を飼い主に引き渡す前に、それが滅失したときは、売主が損害を被ることとするのが一般的です。
第○条(危険負担)
甲又は乙の責に帰することのできない事由により本件建物が滅失又は毀損したときは、一切の負担は甲に帰するものとし、左の通り処理するものとする。…(契約解除、手付金還付、代金減額などを規定する。)
6.担保責任
売買契約で、目的物に瑕疵があれば、売主に担保責任が生じます。この責任は民法に規定がありますが、期間や責任範囲などの内容は特約を定めることができます。
第○条(瑕疵担保責任)
甲は乙に対し、後記表示の○○について、本契約締結の日から半年間だけ瑕疵担保の責を負うものとし、右期間経過後は一切の責を負わないものとする。
7.諸費用の負担
取引によって租税や諸費用はどのように負担するか、明確に定めておくべきです。
第○条(租税等諸費用の負担)
所有権移転登記に必要な登録免許税、登記申請に要する諸費用は乙の負担とする。
8.期限の利益
期限の利益とは、所定の期限までは履行しなくてよいという債務者の利益のことです。金銭貸借や継続的商取引の場合に、絶対に必要なのが、期限の利益を喪失させる条項です。
第○条(期限の利益の喪失)
左の場合には、乙は甲からの通知催告がなくとも当然に期限の利益を失い、ただちに残債務を一時的に弁済しなければならない。
9.規定外事項についての協議
規定外事項について、協議する旨の条項を入れることが多いのですが、あまり実用的な意味はありませんn。
第○条(協議)
本契約に規定のない事項または本契約の規定に関して生じた疑義については甲乙協議のうえ解決する。協議が調わないときは、民法等法令の規定にい従うものとする。
10.裁判管轄
裁判管轄は、取引の相手方が遠隔地にいる場合に、必ず定めておく必要があります。
第○条(裁判管轄)
本契約に関して訴訟の必要が生じた場合には、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の裁判所とする。
1.履行期限・存続期間
金銭債務の履行を確保するためには、強制執行しなければなりません。公正証書で契約し、執行認諾約款をつければ、それがすぐに可能です。
第○条(公正証書)
本契約は、強制執行認諾約款付きの公正証書とする。