会社設立

Ⅰ.会社設立のメリット・デメリット

・会社設立のメリットとしては、次の4つが挙げられます。
@社会的信用が高くなる
A税率がほぼ一定
B役員報酬を支給できる
C節税策が豊富

・会社設立のデメリットとしては、次の2つが挙げられます。
@設立費用がかかる
A会計や税務申告などの手続が複雑

・会社設立と個人事業の比較
@起業時の手続
株式会社等では、定款作成認証や登記の手続が必要ですが、個人事業では、税務署への開業届のみです。
A当初の費用
株式会社設立の手続は、自分で行っても25万円程度かかりますが、個人事業では、すべて自分で行えば0円です。
B申告手続
株式会社等では、税理士を付けづに行うのは困難です。個人事業では、自分1人で可能です・
C節税
株式会社等では、さまざまな節税策がありますが、個人事業では、節税策に乏しいです。
D資金調達
株式会社等では、比較的融資を受けやすいですが、個人事業ではどちらかといえば融資を受けにくいです。
E営業面
株式会社等では、社会的な信用があるため有利な場合が多いですが、個人事業では不利な場合が多くなります。

 

Ⅱ.会社設立の流れ

会社設立の流れは、以下のようになります。なかでも最も重要なのは、会社の基本事項の決定です。会社名や出資金など、会社運営に大きな影響を及ぼす、さまざまな重要事項を決めていく事になるからです。
会社設立のスケジュール

1.会社の基本事項の決定

2.会社の印鑑の作成

3.定款の作成

4.公正役場での定款の認証

5.出資金の払込

6.設立登記の申請

7.会社設立後の各種届出

 

(1)会社の基本事項の決定
「会社名・事業目的・本店所在地・資本金・出資者・出資割合・出資形態・役員・代表者等」を決定します
。会社設立後の経営に直結する内容なので特に重要です。また、定款に記載する項目にもなります。いったん登記された項目は取消すことができず、変更する場合は、登録免許税などの費用がかかります。無駄な手間と費用を省くためにも、定款の内容はしっかり吟味し、慎重に決めなければなりません。
@会社名(商号)
商号を決める際にはルールがあります。商号に使用できる文字の種類ですが、ひらがなやカタカナ、漢字、アルファベット、アラビア数字は使用できます。しかし、統一した読み方のない記号やローマ数字は使用できません。商号を決める際、さらに注意すべきことは、他社と同じ商号を使っていないかどうかということです。著名な商号と同一または類似の商号の使用は、不正競争防止法で禁止されています。事前に類似商号の調査をしておく必要があります。
A事業目的
事業目的とは、その会社が行う事業内容のことであり、会社は、この事業目的の範囲内でのみ活動できると定められています。将来的に行う可能性のあるすべての事業を記載します。事業目的を決める際の守るべきポイントは、違法性・営利性・明確性の3点です。事業目的は、登記され、取引先などの第三者が見ることも多い項目です。将来的な事業プランも見据え、長期的な視点で考えることが重要です。
B本店所在地
本店とは、会社の法律上の住所で、業務を行うメインの場所を本店として登記するのが一般的です。
本店所在地を決める際のポイントとして、
●立地・・店舗など立地そのものが事業の盛衰を左右するビジネスでは、効率よく集客できる場所を選ぶべきです。
●価格・・オフィスの賃料など、かかる経費の負担を抑えることも重要です。資金繰りの面から無理のないように決めましょう。
●郵便物が受け取れる・・会社にとって重要な書類は、原則として登記上の本店住所に郵送されます。確実に受け取れる場所にしましょう。
●許認可業の場合の条件を満たす・・各種許認可業では、法律で決められた場所があります。その要件を満たす場所を選びましょう。
C資本金
出資者から集めた元手です。会社から見れば、借入金とは異なり「返済義務のないお金」です。出資者から見れば、出したお金の範囲内でしか責任を負わない「投資したお金」です。
D出資者
出資とは、対象となる団体に財産を提供すること。あるいは、株式、持分等の地位を取得する形で財産を提供すること、又は一定の団体についてはそれによって得られる株式又は持分類似の地位を指す。出資した者を出資者という。
E出資割合
出資者は、株式を取得することで、株主総会における会社の意思決定に関し、一定の議決権を行使できます。議決権の割合によって、会社の将来に多大な影響を与える決議も可能となります。誰が出資者で、出資割合をいくらにするかは、重要な事項となりますので慎重に決めるべきです。
F役員の決定
取締役になれるのは、会社法で定める欠格事由に該当しない者です。起業した際、多くの場合で発起人がそのまま取締役となり、発起人が複数人いる場合は、通常その中から代表取締役を1名選任します。ただし、必ずしも発起人が代表取締役に就任しなくてはならないわけではなく、外部から選任することもできます。
株式会社の役員の任期は、定款に特に定めがなければ2年(監査役は4年)です。そして、定款で定めれば最長10年まで延長することが可能です。
取締役の任期が短い場合のメリットとしては「役員を変更しやすい」ことが挙げられ、デメリットとしては「任期満了ごとに登記費用がかかる」ということです。一方、取締役の任期が長い場合のメリットとしては「登記費用を抑えられる」、デメリットとしては「途中で役員変更がしにくい」ということです。
なお、合同会社の場合は、業務執行社員や代表社員に任期はありません。

 

(2)会社の印鑑の作成
会社で使う印鑑の種類
代表者印
代表社印は、法務局に登録される会社の実印です。「登記申請書」の添付書類への押印に用いるため、登記申請するまでには用意しなければなりません。代表者が交代するたびに引き継ぐものなので、通常個人名は入りません。
銀行印
会社の口座を作るときに必要となります。代表者印を銀行印と兼任することは万一紛失した場合のことを考え、安全上別なものにした方がよいです。
角印
日常業務での書類に押印する場合に用います。
この3本を使い分けましょう。

 

(3)定款の作成
@定款とは
定款とは、会社の基本的なルールを決めたものです。会社設立時に作成したものを原始定款といいます。
株式会社の場合、定款については公証人の認証を受けることになります。記載ミスがあっても、認証後は原則修正することはできず、修正する場合は、登録免許税を支払って記載事項の変更をすることになります。
A電子定款とは
電子定款とは、電子データで作成された定款のことです。従来の紙の定款に代えて、PDFで作成した電子定款を公証役場に送信することにより、認証も受けられるようになりました。電子定款を利用する最大のメリットは、紙の定款でかかる収入印紙4万円が節約できることです。電子定款は電子データであり、印紙税の対象となる文書に該当しないためです。
<電子定款の作成手順>
1.住所所在地の市区町村役場で、電子証明書付きの住民基本台帳カードを作成します。
2.PDF化した定款に、住民基本台帳カードを用いて電子署名をします。
3.オンライン申請用ソフトを用いて、公証役場に送信します。

 

(4)定款の認証
@紙の定款認証までの流れ
定款が完成したら、公証人による認証を行います。この際の公証人は、本店所在地の都道府県を管轄する法務局に所属する公証人です。すなわち、本店所在地がある都道府県内にある公証役場で認証すると考えておけばよいです。
公証人に認証してもらう前に、事前に公証人にチェックしてもらいます。記載内容に誤字脱字がないか、絶対的記載事項に漏れがないかを確認してもらいます。問題がなければ、公証役場に出向き、認証となります。
定款の認証日には、原則として発起人全員で公証役場へ出向きます。その日に行けない発起人がいる場合、委任状を他の発起人に託します。

(認証日当日の持参物)
1.製本済み定款 3冊
2.発起人印鑑証明書 各自1通
3.収入印紙 40,000円
4.定款認証手数料 約52,000円
5.発起人全員の実印(当日の修正に備えて)
6.当日公証役場に行けない発起人の委任状 各自1通
7.運転免許証等の顔写真入り本人確認資料

 

(5)出資金の払込
各発起人又は社員各人ごとの出資金の額が決定した場合、登記申請の日までに、その決められた出資額の全額を払い込まなくてはなりません。ただし、この段階では、会社の銀行口座がないので、発起人又は社員の代表者の個人の口座に振り込むことで、登記に向けた手続を進めます。
振込が終わったら次の内容が確認できるようにコピーを取ります。
●銀行名・支店名・口座番号
●通帳の名義人
●振込人と、振込人ごとの振込人その金額
法務局の審査対象として、入出金履歴を確認するためです。よって、発起人1名でそのまま役員になる場合でも、自分の口座に自分で振り込みをすることになります。
@資本金の払込の証明方法
代表取締役又は代表社員が、各出資者からの全額出資が完了したことを確認し、そのことを証明する書面を作成します。書面には、出資金の合計額を記載します。この金額は、定款に記載された出資額と一致しなければなりません。株式会社の場合には、その払込を受けた金額に対して、発行した株式の数も併せて記載します。現物出資がある場合、払込を受けた金額には現金で出資された金額のみを記載します。

 

(6)設立登記の申請
@登記の手順
定款の作成・認証が終わったあとの登記の手続は次の通りです。
a.登記の添付書類の作成
b.法務局への登記申請
c.補正があれば補正
d.登記完了
※出資金の払込は登記申請までに完了させておきます。
A登記申請のルール
(当事者申請主義)
原則は、申請の当事者、つまり代表取締役や代表社員が行わなければならないというルールになっています。ただし、司法書士に依頼することもでき、その際は委任状を作成する必要があります。
(書面主義)
全ての書類を書面で作成し、法務局へ申請しなければならないというルールです。持参の場合は持参した日、郵送の場合は書類到達日が会社設立日となります。設立日にこだわるのであれば、持参した方がよいです。
B登記される事項とは
会社設立の際に投棄される事項は、下表のとおりです。記載される事項は、投資家や債権者などに幅広く公示する必要がある重要なものばかりです。会社設立後、登記事項に変更が当た場合、必ず変更登記をしなければなりません。もし行わなかった場合には、法律で罰せられる可能性があります。取引相手となる第三者保護のためです。
(登記される事項)

・商号

株式会社、合同会社

・本店所在地

株式会社、合同会社

・公示をする方法

株式会社、合同会社

・事業目的

株式会社、合同会社

・発行可能株式総数

株式会社のみ

・発行済み株式総数

株式会社のみ

・資本金の額

株式会社、合同会社

・株式の譲渡制限に関する規定

株式会社のみ

・役員の氏名

株式会社・取締役、合同会社・業務執行役員

・代表者の氏名及び住所

株式会社・代表取締役、合同会社・代表社員

C提出方法
書類が揃ったら法務局へ提出します。提出の際には、・登記申請書 ・登録免許税納付用台紙 ・定款 ・発起人決定書 ・就任承諾書 ・印鑑証明書 ・出資金の払込があったことを証明する書面の順に揃え、ホッチキスで綴じて提出します。(印鑑証明書がA4サイズでない場合、A4の用紙に貼り付けてから綴じます。)OCR用申請用紙(又はCD-R)、印鑑届出書は綴じずに提出します。提出する書類は返却されませんので、提出前に一応コピーしておくことをお勧めします。
※登記が完了すると、法務局で、「登記事項証明書」(登記簿謄本)が取得できるようになります。これは、誰でも取得することができます。

 

(7)会社設立後の各種届出
会社設立登記が完了したら、各官庁への届出を行います。届出に関しては、「税金に関するもの」と「労務に関するもの」の2種類になります。
@税金に関する届出
a.税務署へ提出するもの
法人設立届出書
会社設立から2か月以内に必ず提出します。
給与支払事務所等の開設届出書
給与支払事務所等を開設したとき、開設から1か月以内に提出します。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
源泉所得税の納期の特例を受ける場合、納期の特例を受ける月の初日の前日までに提出します。
青色申告の承認申請書
青色申告の承認を受ける場合、設立から3か月以内に提出します。
消費税課税事業者選択届出書
消費税の課税事業者を選択する場合、設立第1期の終了日までに提出します。
消費税簡易課税制度選択届出書
消費税の簡易課税を選択する場合、設立第1期の終了日までに提出します。
b.都道府県税事務所へ提出するもの
法人設立届出書
必ず提出しなければなりませんが、提出時期は都道府県により異なります。
c.市町村へ提出するもの
法人設立届出書
必ず提出しなければなりませんが、提出時期は市町村により異なります。
※提出時は、2部提出し、控井に受領印をを押してもらってから返却してもらいます。
A労務に関する届出
a.年金事務所へ提出するもの
健康保険・厚生年金保険新規適用届
会社設立をした場合、会社設立から5日以内に提出します。(加入義務があります)
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
毎社設立時または新規に従業員を雇用したとき、会社設立または入社日から5日以内に提出します。
健康保険被扶養者(異動)届
被保険者に扶養する者がいて、扶養に入れる場合は速やかに提出します。
国民健康保険第3号被保険者資格取得届
被保険者に被扶養配偶者がいる場合、第3号被保険者に該当してから14日以内に提出します。
b.労働基準監督署へ提出するもの
適用事業報告
従業員を雇用した場合、労働基準法の適用事業となってから速やかに提出します。
労働保険関係成立届
従業員を雇用した場合、従業員を雇用した日から10日以内に提出します。
労働保険概算保険料申告書
従業員を雇用した場合、従業員を雇用した日から50日以内に提出します。
36協定書
従業員に時間外・休日労働をさせる場合、時間外・休日労働をさせる前までに提出します。
c.ハローワーク
雇用保険適用事業所設置届
雇用保険に加入する従業員を雇用した場合、従業員を雇用した日から10日以内に提出します。
雇用保険被保険者資格取得届
雇用保険に加入する従業員を雇用した場合、従業員を雇用した月の翌月10日までに提出します。
※上記以外にも提出しなければならないものが発生する場合もあります。

 

Ⅲ.会社設立後の納税

(1)法人に関わる5つの税金
法人の主な税金には、・法人税 ・住民税 ・事業税 ・消費税 ・固定資産税の5つがあります。これらは自分で税額を計算して申告する申告納税方式がといられています。基本的に黒字であれば課税されるのが、法人税と住民税、事業税です。なお、住民税の一部である均等割という税金は、赤字であっても納税する義務があります。消費税、固定資産税はあ、資本金の額や前々事業年度の売上額、保有している資産などによって、課税対象となるかどうかが決まります。
個人事業と異なり、法人の申告書の作成は非常に複雑で難解です。また、税金には申告書の提出期限が厳格に定められており、必ず期限内に申告しましょう。法人の税務申告は、できる限り税理士などの専門家に依頼することをお勧めします。
@法人税
法人の所得に対して課せられる国税。事業年度に生じた所得に応じて税率が決まる。
A住民税
自治体の運営管理のために徴収される地方税。納めるべき法人税額に応じて課税される「法人税制」と、資本金の額に応じて課税される「均等割」があります。
B事業税
法人の所得に対して課せられる地方税。税率は都道府県ごとに定められています。
C消費税
物品やサービスの売買に対して課せられる税金。
D固定資産税
法人が所有する土地や家屋、またはそれ以外で事業に用いるもの(パソコンや厨房施設、医療機器など)で、減価償却の対象となる資産に科される地方税。このうち償却資産に関する事項が申告の対象となります。
(2)源泉所得税の納付
法人が、役員や従業員などに給与を支払う際、所得税を天引きし、代わりに税務署に納付する義務があります。これを「源泉徴収」といいます。
原則として、給与などの支払いをした月の翌月10日までに納付する義務があります。ただし、一定の要件に当てはまる場合には、納期の特例の承認を受けて、半年に一度まとめて納付することもできます。源泉徴収した税金は、給与から納付のために預かったお金であり、会社が事由に使えるものではありません。必ず期限までに納付しましょう。
(3)住民税の納付
法人が、役員や従業員などに給与を支払う際、所得税同様、住民税についても給与から天引きし、代わりに各市区町村に納付しなければなりません。この制度を「特別徴収」といいます。法人は、役員や従業員に給与を支払う際には所得税の源泉徴収義務と、住民税の特別徴収義務があります。
特別徴収の納税については、1月31日までに、各従業員が居住する市区町村宛てに前年の給与支払報告書を提出します。それに基づき、各市区町村は住民税額を計算し、5月31日までに特別徴収税額を法人に通知します。その額を給与天引きしていきます。

 

Ⅳ.節税のポイント

(1)青色申告の特例
節税のためのもっとも基本的な方法は、青色申告の承認を受けることです。青色申告の承認を受けることで、さまざまな特典を受けられます。
@欠損金の繰越控除
事業年度の赤字を、その後9年にわたり繰り越して、黒字と相殺できる制度です。起業当初のの赤字と軌道に乗ってからの黒字をsプお菜することが可能です。
A雇用促進税制
一定人数の従業員を新たに雇用し、所定の手続を行なった青色申告法人については、法人税の減額を受けることができます。この制度の適用を受けるには、あらかじめハローワークに「雇用促進計画」を提出する必要があります。計画した人数の雇用を達成した場合に、法人税の減額を受けることができます。
B減価償却の特例
「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」制度があり、30万円未満で取得した固定資産(中古も可)については、取得した事業年度で全額を償却し、損金に算入することができます。この制度の適用を受けられるのは、少額減価償却資産の取得価額の合計が300万円に達するまでとなっています。
(2)所得税の節税方法
会社の役員は、会社から受け取る役員報酬について所得税を納めることになります。節税を考える際には、この役員個人の所得税についても検討し、効果的に現金を残すことを考えておく必要があります。
もっとも広く利用されている制度が、小規模企業救済制度です。これは国が行う共済制度で、現役の間に毎月掛金を拠出し、役員を退任する際に拠出してきた掛金の額に応じて共済金を受取れるというものです。いわゆる経営者の退職金として広く利用されています。
現役の間に支払う拠出金は、健康保険料や厚生年金保険料と同様に、全額所得金額から控除できるため、所得税の節税にもつながります。さらに、退任時に受取る際の共済金も退職所得扱いにできるため、大幅に節税できるものが特徴です。

 

Ⅴ.まとめ

起業はチャレンジです。ある程度のリスクをとらなければ、リターンもありません。リスクを承知で一歩踏み出すことも必要です。ただし、リスクを負った際に、最小限に留めるための方法も考えておかなければなりません。そのためにも、あらかじめ各分野の専門家に相談しながら事を進める必要があります。保険に加入することも基本的なリスク回避策です。