遺言

遺言はなぜ必要なのでしょうか?
高齢の両親などに遺言書をすすめるのは、死を暗示させて失礼ではないのか、と考える方もいます。
しかし、いざ遺産相続が発生したときに、「遺言書があれば・・・」といったケースが多々あります。
遺言は、残された家族(相続人)が無用な争いをしなくていいようにするためのものです。いわば、家族への最後の思いやりともいえます。
遺言を残さず亡くなった場合、遺産は民法で規定する法定相続分に応じて相続人に分割されます。例えば、相続人のなかの一人に対して、他の人より多く遺産を残したいとしても、遺言に残しておかなければ、他の者より多く相続できるかどうかは相続人全員の協議次第となります。相続は金銭や権利関係が絡むものなので、相続がこじれると仲の良かった者同士の関係にヒビが入ってしまうことになりかねません。こういった事態を未然に防ぐためにも遺言は必要になってきます。

 

Ⅰ.遺言とは

遺言とは、一般的に故人が自らの死後のために遺した言葉や文章をいます。日常用語としては「ゆいごん」と読まれますが、法律用語としては「いごん」と読まれます。民法上の法制度における遺言は、死後の法律関係を定めるための最終意思の表示をいい、法律上の効力を生じせしめるためには、民法に定める方式に従わなければならないとされています(民法960条)。

遺言は民法に定める方式に従わなければすることができない要式行為(一定の方式によることを必要とする行為)であり、方式に違反する遺言は無効となります(960条)。遺言は相手方のない単独行為であり、遺言者の死亡後に効力が生じる法律行為です(985条)。
<1>遺言能力
遺言は、遺言者の最終意思を尊重する制度で、性質上、代理の許されない行為ですから、制限行為能力者とされる者にも、できるだけ遺言をすることができるようにする必要があります。しかし、他方で、遺言をするには、遺言事項について合理的な判断をするだけの意思能力が必要となります。
民法では、未成年者であっても15歳に達した者、単独で遺言をすることがでます(961条)。成年被後見人については、医師2人以上の立ち会いの下で正常な判断力回復が確認された場合にのみ遺言をすることができることとなっています(973条)。
<2>撤回
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。さらに、前の遺言と抵触する内容の遺言がなされた場合には、抵触する部分で、撤回がなされたものとみなし、遺言に抵触するような行為があった場合には、同様に遺言の撤回とみなします。
例えば、AがBに自分の家を遺贈する旨を遺言していましたが、生存中に、当該家屋を他人に売却したような場合には、その部分が撤回されたとみなされることになります。

@自分で撤回する(1022条) A遺言を書き換える(1023条1項) B遺言に抵触する生前処分を行う(1023条2項)   
新しい遺言や行為が優先し、これに抵触する以前の遺言は、抵触する範囲で撤回されたものとみなされます。

 

Ⅱ.遺言の種類

「遺言書」といっても、おもに下記の3つの種類があり、それぞれ決められた様式があります。
遺言書は様式の条件を満たしていることが重要なのです。

<種類>       <内容・様式>
@自筆証書遺言    遺言者が、遺言の全文・日付・氏名を自書し、捺印した遺言
A公正証書遺言    遺言者の指示により公証人が筆記した遺言書に、遺言者、公証人および2人以上の証人が、内容を承認の上署名・捺印した遺言
B秘密証書遺言    遺言者が遺言書に署名・捺印の上封印し、封紙に公証人および2人以上の証人が署名・捺印をした遺言

遺言の種類によって、メリット・デメリットがあります。
どの方法によるかは各々の判断となりますが、専門家の意見も参考にするのもよいかと思います。

 

Ⅲ.遺言について

<1>遺言執行者とは
遺言を書いた人は、自分が死亡したあとに遺言が正しく実行されるのを見届けることはできません。そこで遺言者は、責任をもって遺言を実行する人=「遺言執行者」を遺言書の中で指定できます。遺言執行者は、遺言を執行するために必要なことができ、相続人は遺言の執行を妨げることができないよう民法に定められています。では、遺言執行者が指定されていなかった場合はどうでしょうか。家庭裁判所に、相続人と利害関係のない遺言執行者を選んでもらうことができます。ただし、遺言執行者は、必ず選任しなければならないものではありません。
<2>遺言は勝手に開封してはいけません
もし遺言書を発見した人が「自分に不利な内容だったらどうしよう」と、1人で勝手に封を開けてしまったらどうなるでしょうか。ほかの相続人は封のとかれた遺言書を見て、開けた人が書き替えたんじゃないかと疑うかもしれません。こんなことが起こらないように、遺言書には「これは正規のもので、誰の手も加えられていません」という確認が必要なのです。
この確認を「遺言書の検認」といいます。具体的には、遺言書を発見したら開封せずに家庭裁判所にもっていき、「検認済証明書」をもらいます。
ただし、遺言の中でも「公正証書遺言」は公証役場に原本が保管されることから偽造の可能性が低いとされ、検認を行う必要はありません。
<3>共同遺言の禁止
遺言は、たとえ夫婦であっても、二人以上の者が同一の証書ですることはできません。
<4>その他注意点
遺言があっても、相続人全員が同意するのであれば、遺言の内容と異なる遺産分割協議を行うことができると解されています。ただし、この場合でも、遺言執行者がいるケースでは遺言執行者の同意が必要だと解されています。なお、そもそも遺言者が、遺言と異なる遺産分割を禁じた場合には、遺言の内容と異なる遺産分割はできません。

 

 遺言の作成

Ⅰ.遺言の作成方式

遺言の作成方式には「普通方式」と「特別方式」があります。普通方式の遺言としては、上記でも述べたように、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。特別方式の遺言としては、遺言者が死に瀕しているなどの緊急状態にある場合、遺言者が交通の遮断された地域にいる場合に認められるものです。

 

Ⅱ.普通方式遺言

普通方式の3種類について、詳しく述べたいと思います。
【1】自筆証書遺言
自筆証書遺言は、内容のすべてを本人が自筆で作成する必要があります(注1)。この方式によるメリットは、誰でも簡単に作成することができるという点です。しかし、このことは、逆にいうと、本人以外の第三者によって改ざんが行われる可能性が高いということになります。また、相続開始時には家庭裁判所による検認という手続を経なければなりません。
さらに、民法の定める要件を満たしていないと、無効な遺言書となってしまう可能性があります。
では、自筆証書遺言について、民法に定められている要件を見ていきましょう。
(1)遺言の内容、日付、遺言者の署名すべてを自署すること。
・例えば、パソコンで作成したものや代筆してもらったものも無効となります。
・音声録音やビデオ録画による遺言は無効です。
(2)日付を明記すること。
・遺言書の日付は、作成日が特定できるものでなければなりません。「令和1年5月吉日」といったものでは無効となります。
 明確に「令和1年5月10日」と記載すること。ただし、年月日になっていなくても有効なものがあります。
 例えば、「還暦となった日」とか「○○年の大みそか」といったように、日付でなくともその日が特定できる場合は有効です。
・自署しなければならないので、日付のスタンプは無効です。
(3)署名・捺印すること。
・自分の氏名を書き、ハンコを押します。
 氏名は、戸籍通りのフルネームで記載しますが、本人と特定できるのであればペンネームでも構いません。
 ハンコは認印でも可ですが、できれば実印のほうがよいでしょう。シャチハタは不可です。
(4)加除訂正は決められた方式によること。
・書き間違いの訂正や追加する場合は、法律の定める方式通りにしなければなりません。守らなければ無効となります。
 書き間違いなどがあった場合は、すべて書き直したほうがよいでしょう。
(5)その他の注意点
・遺言の記載内容は具体的に書き、曖昧な表現は避けたほうがよいでしょう。
・不動産は登記簿謄本通りに正確に記載します。明確に記載されていないと、遺言書による登記の移転ができない場合もあります。不動産であれば、所在地・地番・地目・地積などまで詳細に記載します。
・預貯金は、金融機関名・支店名・預金の種類・口座名義人・口座番号まで記載します。
・遺産分割をスムーズに行うために、遺言書に遺言執行者を決めておくほうが良いでしょう。
(6)封筒に入れて封印すること。
・法的な規定はありませんが、改ざんされるようなことを防ぐためにも封筒に封印して保存することが良いでしょう。
 できれば貸金庫などの安全な場所に保管することが望ましいと思われます。

 

※遺言書によって、法定相続分と異なる相続分の指定をする場合は、遺留分等も考慮に入れ、付言事項としてその理由や心情を明らかにして遺言書に記載することも忘れないでおきましょう。余計な揉め事を起こさないようにしておくことも重要です。

<平成30年の民法改正>・・・自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月13日から施行)
財産目録を別紙として添付する場合に限り、自書を不要とすることとされました。
代わりの作成方法としては、従来の自筆部分をパソコンで作成した書面のほか、登記事項証明書や、預金通帳のコピーを添付する方法が挙げられています。
※なお、別紙の全てのページに署名・捺印をする必要があります。
<平成30年の民法改正>・・・自筆証書遺言の保管制度の創設(2020年7月10日から施行)
自筆証書遺言(原本)を法務局に保管する制度が創設されました。
・遺言者は、自筆証書遺言(特定の様式かつ無封のみ)について、法務局に保管申請できる。ただし、遺言者本人が法務局に出頭して手続する必要があります(代理申請不可)。また、保管申請ができる法務局は、遺言者の住所地・本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する指定法務局に限定されます。
・遺言者は、いつでも遺言書の返還・閲覧請求可。
・遺言者の関係相続人等(相続人・受遺者・遺言執行者等)は、以下を請求できる。ただし、遺言者の死亡後に限ります。
@遺言書情報証明書の交付
A遺言書保管事実証明書の交付
B遺言書の閲覧
・相続人等の1人が@またはBの手続きをした場合、法務局からその他の相続人等へ、遺言書を保管していることが通知される。
・家庭裁判所での検認の手続きは不要。

 

【2】公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が遺言者から遺言の内容を聞き取り、公証人が書面に作成する方式です。公証人が作成することにより、内容の不備や偽造のおそれもありません。さらに、家庭裁判所の検認も必要ありません。原本は公証役場で年保管されますので、遺言書が所在不明となることもありません。一方で、費用がかかることと証人を2名選任しなければならないことが短所と言えます。
では、公正証書遺言の作成方法を見ていきましょう。
(1)遺言した内容を整理し原案を作ること。
・相続財産のリストを作成し、誰に何をどのような割合で相続させるか等の遺言内容を事前に整理しておきます。
(2)証人2名を依頼すること。
・遺言者は証人を2名選任します。
・証人は利害関係のない第三者(弁護士・行政書士等)を選任することをおすすめします。
※未成年者・推定相続人・被後見人・被保佐人・公証人の配偶者等証人になれない方もいますので事前にご確認ください。
(3)必要書類を用意しておくこと。
・遺言者の印鑑証明書
・遺言者と相続人との関係がわかる戸籍謄本、受遺者の戸籍謄本
・相続人以外に遺贈する場合はその者の住民票
・会社等の法人に遺贈する場合はその法人の登記簿謄本
・財産を特定するための不動産の登記簿謄本又は固定資産評価証明書、預金通帳の写し等
・証人となる者の住民票
(4)公証人と原案の打ち合わせをすること。
・相続財産リストや自ら作成した原案をもとに、公証人と打ち合わせをします。全国どこの公証役場でも作成できます。
・健康上の理由等により公証役場に出向くことが出来ない場合は、直轄の公証人に出張依頼することができます。
(5)公証人役場での遺言書の作成をすること。
・証人2名と公証役場に出向きます。(若しくは公証人に出張してもらいます)
・遺言者が口述し、公証人が遺言内容を記述します。
※ただし、実務上、事前に公証人に遺言の内容を伝えておいて公証人が遺言書を作成しておき、当日は、公証人が遺言者から遺言内容を口授してもらい遺言者の意思を確認するという方法がとられています。
・公証人が遺言書の内容を遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、間違いがないか確認する。
・遺言者及び証人が遺言書に署名捺印します。(遺言者は実印、証人は認印を用意します)
・公証人が遺言書に署名捺印する
・遺言書の原本は公証役場で保管され、遺言者には遺言書の正本と謄本が交付されます。
※公証役場での保管は原則20年ですが、公証役場によってはもっと長い期間保管しています。
公正証書遺言作成費用(手数料)
公証役場での公正証書遺言の作成する場合の費用は法定されています。
その額は、相続人や受遺者が遺言者から受け取る財産額や人数にって変わります。

<目的財産の価格>
@100万円まで
A100万円超〜200万円まで
B200万円超〜500万円まで
C500万円超〜1,000万円まで
D1,000万円超〜3,000万円まで
E3,000万円超〜5,000万円まで
F5,000万円超〜1億円まで
G1億円超〜3億円まで
H3億円超〜10億円まで
I10億円超〜

<手数料>
@5,000円
A7,000円
B11,000円
C17,000円
D23,000円
E29,000円
F43,000円
G43,000円に5,000万円を超過するごとに13,000円追加
H95,000円に5,000万円を超過するごとに11,000円追加
I249,000円に5,000万円を超過するごとに8,000円追加

費用の計算方法

@財産の相続又は遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、これを上記基準表に当てはめて、その価額に対応する
手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、当該遺言書全体の手数料を算出します。
A遺言加算といって、全体の財産が1億円以下のときは、上記@によって算出された手数料額に、1万1,000円が加算されます。
B遺言書は、原本・正本・謄本を各1部作成しますが、原本についてはその枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料が加算され、また、正本と謄本の交付にも1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。
C遺言者が病気又は高齢等のために公証役場に出向くことができず、公証人が出張作成する場合には、上記@の手数料が50%加算される他、公証人の日当(日当は4時間以内1万円、それ以上は2万円)と、現地までの交通費がかかります。

上記を踏まえて、具体例を見ていきましょう。
相続人3名、相続額が各々3,000万円の場合
上記の一覧表より、手数料は23,000円×3名=69,000円となります。相続額の総額が9,000万円となるのでAより、11,000円が加算され合計80,000円となります。もし、公証人が自宅まで出張して作成する場合は、手数料は(23,000円×1.5×3名=103,500円)となります。

 

【3】秘密証書遺言
秘密証書遺言は、公証人及び証人2名以上に、遺言者が書いたものであることを証明してもらうものです。公証人と証人には、遺言書の内容は確認しないので、不備があった場合は無効となります。
では、秘密証書遺言について見ていきましょう。
(1)遺言の内容は自身でまとめて封印すること。
・自筆証書遺言同様にご自身で遺言内容を記載します。
・自筆証書遺言と違い、本人が署名・捺印をすればパソコンやワープロ、代筆されたものでも構わないということです。
・自筆で書いておけば、何ら可の理由で秘密証書遺言として認められなかった場合でも、内容に不備がなければ自筆証書遺言として成立させることができます。遺言書を作成したら封筒に入れ、捺印したものと同じハンコを押して封印します。
(2)公証役場で証明してもらうこと。
・遺言者は証人2名を連れて公証役場へ行き、遺言書を公証人に提出します。
・自身が遺言者である旨を伝え、氏名・住所を口頭で伝え、内容を代筆してもらった場合はその者の氏名・住所も伝えます。
・公証人は遺言書が本人のものであることを確認し、遺言者の氏名・住所・日付を封書に記載して、遺言者・公証人・証人がそれぞれ署名捺印します。
(3)遺言書を保管すること。
・公証人は遺言書を作成した日付、遺言書と公証人の氏名を公証役場の記録に残します。
・遺言書は遺言者に返却されます。
※秘密証書遺言は公証役場で記録されますが、公正証書遺言のように保管してくれません。保管は自分の責任となります。秘密証書遺言を作成した場合は、利害関係のない弁護人や遺言執行人、銀行の貸金庫に預ける等の方法が安心です。

 

Ⅲ.特別方式遺言

【1】危急時遺言
危急時遺言作成の要件として、
(1)証人3名以上の立会いをもって、その1名に遺言の趣旨を口授して行うこと
(2)口授を受けた者がこれを筆記し、遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後署名捺印してあること
(3)この遺言の日から20日以内に証人の1名又は利害関係人から家庭裁判所に請求して、その確認を得ること
(4)家庭裁判所により、遺言が遺言者の真意に出たものであること
【2】隔絶地遺言
隔絶地遺言には、@伝染病隔離者の遺言 A在船者の遺言 B船舶遭難者の遺言の3つがあります。
@伝染病隔離者遺言
(1)遺言者が伝染病のために行政処分によって、交通を絶たれた場所にいること
(2)警察官1名及び証人1名以上の立会いをもって遺言をすること
(3)遺言者、筆者、立会人及び証人が各自遺言書に署名捺印してあること
ただし、署名又は押印ができない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記することが必要です。
A在船者遺言
(1)遺言者が船舶中にいること
(2)船長又は事務員1名及び証人2名以上の立会いがあること
(3)遺言者、筆者、立会人、証人が各自遺言書に署名捺印してあること
ただし、署名又は押印ができない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記することが必要です。
B船舶遭難者遺言
(1)船舶遭難の場合であること
(2)船舶中で死亡の危急に迫った遺言者は証人2名以上の立会いをもって口頭でする
(3)証人がその遺言の趣旨を筆記して署名捺印すること
ただし、署名又は押印ができない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記することが必要です。
(4)証人の1名又は利害関係人が、遅滞なく家庭裁判所に請求して遺言が遺言者の真意に基づくものであることの確認を得ることが必要です。
※それぞれの遺言で、付記を欠いたものは遺言書自体が無効になると解されています。
※特別方式による遺言は、遺言者が普通方式による遺言ができるようになったときから、6か月間生存するときは、効力を失います。